古い屋根の下で

Under the Old Roof

古い建物には不思議な魅力があります。ぼくたちが住んでいるのも古い家で、30年以上前に妻の祖父が建てたそうです。

幼いころの妻もこの家で育ちました。妻がここに住んでいたときの話を聞くと、ぼくが経験したことのないような苦労話がたくさん出てきます。それがまるで、「昔はこうだったんだよ」と、ぼくの母親が子供のころの話をしてくれているかのように聞こえることもあります。ぼくからすると、妻の話は世代がひとつずれているような感覚です。そんなぼくたちが今は一緒に生きている。それだけ台湾社会が目まぐるしい速さで変化してきたということなのかもしれません。

この文章を書いている今、長女は7歳、次女は4歳になりますが、子供たちは本当に、あっという間に大きくなっていきます。いつの間にか立って、歩いて、ぼくより流暢に中国語を話して、ピアノの前に座りバッハのメヌエットを弾いています。そのそれぞれに「できるようになった日」があったはずですが、どれも思い出すことができません。この家での出来事は、タイムマシンにでも乗ったかのように、目にも止まらない速さで過ぎ去っていきます。

なにかはいつの間にかはじまって、いつの間にか終わっていて、終わったと思えばまたべつのなにかがはじまっている。しかしどんなに時間が流れても、昔から変わらず、この家の窓に注ぎ込む光には、そのすべてが刻み込まれている気がするのです。